のぞきや盗撮を理由とした高校の退学処分が違法とされた事例

はじめに

 令和4年2月8日静岡地方裁判所判決は、高校に在籍していた元生徒らが、浴場での女湯ののぞきみや盗撮行為について、校長が行った退学処分が違法としてその取消し等を求めた事案です。

 裁判所は、高校が、元生徒の2名について、退学処分が違法ではないと判断し、元生徒の1名について、退学処分が違法であると判断しました。

退学処分の適法性の判断方法について

 裁判例は、退学処分の適法性の判断方法について、次のとおり述べています。

 「高等学校の校長が学生に対して退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである。しかし、退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則26条3項も4個の退学事由を限定的に定めていることからすると、当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである(最高裁平成7年(行ツ)第74号同8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁参照)。
 静岡県立高等学校学則34条は、懲戒処分としての退学処分は校長が行うとしているところ(2項)、退学事由として学校教育法施行規則26条3項が定めるのと同様の事由を定めている(3項)ことからすると、上記で述べたことは、同学則34条に基づく退学処分についても妥当するというべきである。

適法と判断された退学処分のその理由

 裁判例は、退学処分が適法と判断された元生徒の1名について次のとおり述べています。

 「イ 本件のぞきは、男湯の浴場の本件穴から通常女性が全裸の状態でいる女湯の浴場をのぞいたものであり、軽犯罪法や静岡県迷惑行為等防止条例という刑罰法規に触れ得るものであって、その態様として立入りが許されない場所である女湯の浴場や脱衣所に侵入するなどして行われたものでないこと、女湯の浴場の床から10センチメートル程度の高さが見えたにすぎないこと、計画性があるとはいえないこと、複数人が集まったことによる集団心理に基づくものであると考えられることなどを考慮しても、悪質な行為といえる。また、本件のぞきが行われた当時、女湯の浴場には本件高校の水泳部の女子生徒が複数人いたのであり、その年齢等のほか、在籍する学校や所属する部活動が原告らと同じであることに照らして、被害生徒らが受けた裸体を見られたかもしれないという羞恥心、屈辱感や嫌悪感等の精神的苦痛は重大といえるし、被害生徒らの今後の健全な成長に重大な悪影響が生じるおそれも認められる。実際に、合意確認書(甲15)の内容からも、被害生徒らは、本件事件により多大な精神的苦痛を受け、それが本件事件から相当の期間が経過しても癒えないで継続していることがうかがえる。
 ウ また、被害生徒らは、原告らと同じ本件高校に在籍する生徒であるところ、仮に、本件8人が今後も本件高校に通学することとなった場合、その事実自体が被害生徒らの心身の状態に悪影響を及ぼすおそれが認められるし、仮に、被害生徒らが本件8人と直接接することになった場合の悪影響は計り知れない。実際に、被害生徒ら及びその保護者と複数回にわたり面談した臨床心理士の資格を有するスクールカウンセラーからも、本件高校にそのような報告がされていることが認められる。そして、本件高校は、そのような被害生徒らに与える影響も踏まえて検討した結果、本件8人と被害生徒らを同じ学校で教育することはできない旨判断したのであって、その判断が不合理とはいえない。
 他方、本件8人にとっても、被害生徒らが在籍し、本件事件について認識している生徒が周囲にいる本件高校に今後も在籍して就学するよりも、他校に転学するなどした方が、落ち着いた環境で安定的に教育を受けることができるという判断も、不合理とはいえない。
 そして、本件高校は、上記のような判断を前提としつつ、本件8人について、懲戒処分による影響や他校での教育の機会の確保にも配慮して、直ちに退学処分とするのではなく、進路変更を考慮させる旨の決定をしている。
 エ さらに、本件高校は、本件8人に進路変更を考慮させる決定をして以降、本件8人及びその保護者に対してその旨伝えるとともに、その後2か月間にわたり、本件8人及びその保護者との間で、本件高校から他の高等学校に転学、転入すること等について複数回連絡をし、これに応じて本件高校と直接対話した訴外Eらの保護者との間では、転学等に必要な書類等のやり取りをするなど、本件高校以外の場所において本件8人に対する教育の機会が確保されるよう一定の必要な手続を行っていたといえる。また、最終的に転学等の意向を示した訴外Eらについては、転学等をする場合に本件高校への在籍期間をいつまでにするか等の生徒及び保護者の希望について、一定の範囲で応じる意向を示すなど、生徒の学生としての身分の維持、継続について不利益が生じないよう配慮や支援も行っている。そして、本件高校は、上記のような2か月の間、学校との対話に応じず、転学等の意向を示さず、その手続を進めることがない生徒についても、連日ないし数日おきに連絡を試みるなどして、進路変更に関するやり取りをしようとしていた上、それでも対話をすることができなかった原告らについてのみ、生徒指導委員会及び運営委員会における審議並びに職員会議を経て、懲戒処分としての退学処分を行うことにしている。
 このように、本件高校は、本件事件に関与したとされる本件8人について、進路変更を考慮させる旨の決定以降も、実際に、懲戒処分による不利益が生じるのを避けるために、本件高校以外の場所において学生の身分を継続し、教育の機会が確保されるように相応の配慮や努力をしていたといえる。そして、2か月という相当の期間にわたる上記のような対応によっても進路変更に関するやり取りすらできなかった原告らについてのみ、やむを得ず、退学処分をするに至っている。
 オ 以上のような本件のぞきの悪質性、被害生徒らに与えた精神的苦痛の重大性や今後の心身に生じ得る悪影響、本件8人の教育の機会の確保のために本件高校が退学処分に至るまでに行った議論や対応等に照らすと、原告Bにこれまで本件高校における処分歴等がないこと、被害生徒らの保護者は、本件8人の処分について、必ずしも退学を求めるものではなく、あくまでも学校側の判断に委ねる旨の意向を有しているとうかがえること(甲15、17)を考慮しても、進路変更に応じようとしなかった原告Bを退学処分とした本件高校の校長の判断が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたとは認め難い。

違法と判断された退学処分のその理由

 裁判例は、退学処分が違法と判断された1名の元生徒について次のとおり述べています。

 「ア 原告Aに対する退学処分は、本件事件の現場に同席した上で、Eが本件盗撮をする様子を笑って見ていた事実、本件盗撮で撮影された動画を見ようとした事実、本件8人の間で、翌日に実施されるリレーのメンバーであった原告A及びHは無関係であるとの口裏合わせを言い出した事実などを前提として、初めから浴場内にいたことなどを理由に他の本件盗撮や本件のぞきをした者と仲間であると認識できると判断したことを根拠としてされたものである。
 イ 確かに、本件事件の状況の一部が撮影された動画(乙9)や原告Aの供述によると、原告Aは、本件事件当時、既に衣服を脱ぎ、男湯の浴場内にいたこと、他の者が本件のぞきや本件盗撮をしている状況を見て笑っていたこと、本件盗撮で撮影された動画を見ようとしたことが認められる。また、原告Aには、他の者が本件盗撮や本件のぞきをしようとするのを制止するなどしていた形跡はうかがえない。
 しかし、上記動画は当時の状況の一部が撮影されたものにすぎず、本件全証拠によっても、本件盗撮や本件のぞきが始まった当初から原告Aが浴場内にいたとか、本件盗撮や本件のぞきを行うについて原告Aが本件8人のうち他の者と何らかの意思の共有をしていたとまでは認められないといわざるを得ない。
 ウ この点、本件高校の校長は、本件事件について、本件8人の供述や、本件のぞき及び本件盗撮がされる状況の一部が撮影された動画(乙9)から、本件8人が仲間として集団で行ったものであると判断した上で、原告Aの処分について検討したことが認められる(乙2、3、13、証人■■、証人■■)。しかし、本件高校の教職員は、本件8人に対し、従前実施していたとする児童ポルノに係る法令についての指導を引き合いに、動画を撮影・所持する行為だけでなく、動画を見に行く行為も同様に許されないとの評価の下で聴き取りを行っていたと認められる(乙13、証人■■)。そうすると、本件事件について本件8人が仲間として行った旨の供述が本件8人からされたとしても、そのような供述は、聴き取りを行った教職員が有する上記評価に影響を受け、当該評価を前提として、上記動画を見ようとした原告Aも本件8人のうち他の者と同程度に許されない行為をしたという程度の趣旨でされたものであることが強くうかがえるのであって、実態を適切に表現したものといえるかは疑わしい。
 また、本件8人に対する聴き取りの中で、加害者が6人ではなく8人であったことが分かった旨の証人■■の証言からすると、本件高校の教職員が上記動画を確認したのは、本件8人から、本件8人が仲間として本件事件を行った旨の供述がされた後であることがうかがえる。そうすると、本件高校の教職員が上記動画から受けた本件8人が仲間として本件事件を行ったとする印象も、前述した上記動画の内容に照らすと、本件8人の上記供述に影響を受けたものであることが強くうかがえる。
 したがって、本件8人の供述や上記動画を根拠に、本件8人が仲間として本件事件を行ったという本件高校の校長の判断は、合理的とはいい難い。
 エ また、本件高校の校長は、学校という環境においては、本件8人が仲間として及んだ行為に対する処分において、本件8人の間で差異を設けることはできないと判断した上で、原告Aの処分について検討したことが認められる(証人■■)。
 しかし、前述のとおり、原告Aについては、本件盗撮や本件のぞきを行うことについて本件8人のうち他の者と何らかの意思の共有をしていたとまでは認められないことからすると、本件事件について、原告Aが、本件8人のうち他の者と仲間として行ったとまではいえない。また、原告Aは、本件盗撮の様子を笑って見ていたり、本件盗撮によって撮影された動画を見ようとしていたことが認められるものの、原告Aが実際に盗撮行為をしたり、盗撮に用いるスマートフォンを提供したり、のぞき行為をしたりしたとまでは認められないから、それらの行為を実際にした者との間で責任や非難の程度は当然に異なる。そのため、原告Aが上記行為をすることで本件事件に一定の関与をしたということはできても、当該行為による関与をもって、原告Aについて他の者と処分に差異を設けないというのは、少なくとも退学処分という重大な処分の適否が問題となる本件においては、学校教育における特性を十分に考慮しても、社会観念上、著しく妥当を欠くといわざるを得ない。
 オ さらに、本件高校は、被害生徒らの心情に配慮する必要がある旨を原告Aに対する退学処分の理由としているが、上記のとおり、原告Aは、本件盗撮の様子を笑って見ていたり、本件盗撮によって撮影された動画を見ようとしていたりしたことが認められるものの、本件事件について、本件8人のうち他の者と仲間として行ったとまではいえない。本件高校としては、被害生徒らに対し、原告Aが行った行為や立場を丁寧に説明し、被害生徒らの心情等に十分に配慮するなどして、その生活及び学習環境の悪化が生じないように努めるべきである。さらに、本件高校には、生徒の処遇やその内容について定める生徒指導内規(乙8)が存在するところ、その処遇処置として、「無期謹慎指導」「謹慎指導3日以上」等本件高校への登校を前提としない指導内容が定められている。そうすると、原告Aに対し、教育的配慮として、その自宅において、同様の指導を行ったり、登校させる場合でも、被害生徒らとの接触を避けて授業等を受けたりできるように工夫することにより、原告Aが本件高校に実際に登校したり、被害生徒らを含む他の生徒と接触したりすることを避けることも不可能ではなく、原告Aを学外に排除することが教育上やむを得ないとまでは認められない。
 カ そして、既に述べたところに照らすと、本件事件に関して原告Aが行った行為は、被害生徒らに一定の精神的苦痛を与えるものであり、一定の悪質性を有するとはいえるが、原告Aを学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる程度のものとはいうことができない。
 (中略)
 キ 以上によると、原告Aを退学処分とした本件高校の校長の判断は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたものであり、違法であると認められる。

さいごに

 退学処分がされそうになったり、された場合には、学校側との交渉や、場合によっては法的な手続で対応することが必要です。

 交渉でも、法的な手続でも、退学処分の理由を確認して、その理由が実際に存在するのか、存在するとして、退学処分に値するのかを検討する必要があります。

 上記の裁判例では、盗撮等への関与の程度の差異等から、退学処分の適法性の判断が分かれています。

 退学処分の学校問題は、弁護士にご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。

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