いじめ行為の存在が認められないか、認められるとしても不法行為とは認められないとされた事例・令和5年2月10日東京地方裁判所判決

 令和5年2月10日東京地方裁判所判決は、中学生の生徒であった原告が、同じクラスの生徒から違法ないじめ行為を受けて精神的苦痛を被ったとして、被告生徒ら及び被告生徒らの親権者ら、被告学園に対して損害賠償を求めた事案です。

 結論としては、裁判所は、いじめ行為の存在が認められないか、認められるとしても不法行為とは認められないと判断しました。

 提訴に至る経緯として、被告学園は、いじめの重大事態に当たると判断しています。その後、第三者委員会が設置され、いじめの有無について調査が実施される等しています。第三者委員会がいじめと認定した行為もあります。

 裁判所は、具体的には、以下の内容等の判断を示しました。

① 「原告は、被告Y10ら4名が平成29年6月から約半年間にわたり週1回程度原告のロッカー前に立ちはだかり、原告が場所を空けるよう懇願しても無視して、原告がロッカーから教材等を取り出すのを妨害した旨を主張する。
 しかしながら、原告が主張するような頻度で妨害行為が行われたとすれば、本件第三者委員会の生徒に対する事情聴取において何らかの目撃証言が得られてしかるべきであるところ、本件調査報告書では、そのような積極的な証言は聴取できなかったとされ、誰かがロッカーの前で原告の邪魔をしていたのかについては認定できないとされた(乙N10の29頁)。加えて、当該状況の録音記録(甲58、59)によっても、原告が主張するような原告の懇願や被告Y10らの妨害行為が行われた状況はうかがわれない。そうすると、被告Y10ら4名が、原告がロッカーから教材等を取ろうとするのを妨害したとは認められない。
 なお、本件調査報告書は、原告がロッカーにしまってある物を取ろうとしたが、その前に人がいて取れなかったという状況があったと推測されるとしているが(乙N10の29頁)、当該事実のみをもって、原告の妨げとなった行為が社会通念上相当とされる限度を超えるということはできず、不法行為法上違法であるということはできない。
 したがって、いじめ行為1に関する原告の主張は、理由がない。」

② 「原告は、被告Y1ら5名が、平成29年9月9日から同月10日に行われた学園祭の当日、原告に対し、原告が学園祭においてクラスのシフトをQ1に代わってもらったことについてQ1に土下座するよう要求した旨、被告Y1ら6名が、学園祭の翌登校日に、原告に対し、Q1に土下座していないのかなどと詰め寄った旨を主張し、これに沿う陳述をする(甲103)。
 この点、D1教諭は、平成30年2月3日の原告父母との面談において、ある生徒が原告に対し「土下座もんだよね。」と言った旨述べたことが認められる(甲31(35頁)、58)。
 しかしながら、本件調査報告書では、原告から具体的な状況に関する説明を得ることができず、謝罪を強要したことを認める者はおらず、目撃証言もほとんど得られなかったことから、いじめがあったと認定できるだけの客観的事実は明らかにならなかったとされている(前記認定事実1(5)ア(イ))。また、仮に、被告Y1ら5名ないし6名が、原告に対し、学園祭の原告のシフトを代わりに担当したQ1に対し謝罪するよう求め、「土下座もんだよね。」などと述べたとしても、原告がクラスのシフトをQ1に交替してもらっていたこと自体は事実であること、実際に原告が土下座するに至ったことはうかがわれず、複数の日にわたり原告に謝罪要求がされたとしても、執拗に謝罪を求める態様であったとまでは認められないことを踏まえると、原告に対する謝罪の要求が、社会通念上相当とされる限度を超えるとはいえない。
 したがって、いじめ行為3及び4に関する原告の主張は、理由がない。」

③ 「原告は、被告Y3、被告Y4、被告Y8及び被告Y11が、平成29年12月18日、原告の弁当について口々に揶揄嘲笑した旨を主張し、その当時の録音記録を提出する(甲33、58)。
 当該録音記録によれば、原告が弁当について「水の量がだ、多すぎるんだよ、何か。」と言うと、ある生徒が「シチューかけたんだって」と言い、別の生徒が「色黄色い」と言ったこと、その後、別の生徒が「リボンのパンツについてどう思う?」と述べ、続けて「いや、例えば、中1がとにかく、リボンのパンツをはいていたらどう思うの」と尋ね、原告が「マジで?」と答えると、「ぶりっこだって。この人はいているんだよ」と述べたこと、別の生徒が原告に対し「何食べてんの」と問い、原告が「シチューだよ」と答えると、「小麦粉使ってないからとろみないんだね」と発言し、別の生徒が「小麦粉使えばいいのに。」と述べたこと(以上につき、甲33の9頁以下、17頁。ただし、発言者が甲33に記載のとおりかは明らかでない。)が認められる。
 しかしながら、これらの会話は、食事中にされた会話として一部配慮に欠けるところがないわけではないものの、基本的にはクラスメート間の他愛もない会話にすぎず、もともと原告父が平成30年1月に被告学園中学部に提出した被害事実最終書類にも記載がなかったことも踏まえると、これらの発言が社会通念上相当される限度を超えるものとはいえない。
 したがって、いじめ行為5に関する原告の主張は、理由がない。」

④ 「原告は、被告Y1、被告Y7及び被告Y8が共謀して、平成29年10月から11月にかけて、原告と一緒に映画を見に行く意思がないにもかかわらず、原告を映画に誘い、待ち合わせ場所に呼び出し、待ちぼうけにさせた旨を主張する。
 本件調査報告書によれば、原告は公開中の映画に関心があることを被告Y7に話し、被告Y1も別の生徒にこの映画を見に行かないか誘っていたこと、被告Y8が、原告と被告Y1が一緒に映画を見に行くような関係ではないことを知りながら、原告と被告Y1のそれぞれに一緒に映画に行ったらどうかと話したこと、被告Y1は、周囲の生徒から原告と映画に行くように言われることに困惑していたが、被告Y1に対するいじりが盛り上がり、T1が被告Y1から土日の予定を聞き出し、原告に対してその予定を伝えたこと、原告は、指定された時間に待ち合わせ場所に出かけたところ誰も来ず、原告以外の関与者は、映画の話は冗談であると考えていたことが認定されている(前記認定事実1(5)イ(ア))。また、平成30年1月の教員による生徒の聞き取りの結果によれば、被告Y1は、被告Y7と被告Y8が、「じゃあ二人で見に行きなよ。」と言って、原告と被告Y1との間を行き来しながら、計画を勝手に作り上げたと話し、被告Y7は、原告から映画について相談され、被告Y1が歴史の映画が好きだと答えた後は、被告Y8と他の生徒が話をしていたと話したことが認められる(乙N23)。さらに、被告Y1の母である被告Y15は、同月25日、T1の母から、電話で、T1が被告Y1と原告がそれほど親しくないのに映画に一緒に行ったらいいと言ったみたいであり、被告Y1を巻き込んだことを謝り、同月29日には、T1が被告Y1に謝ったことが認められる(乙A5)。
 以上を踏まえると、被告Y8やT1らが、被告Y1をからかうつもりで、公開中の歴史映画に興味がある原告と映画館に言ったらどうかなどと提案したこと、このような話が出た中で、原告が実際に待ち合わせ場所とされる書店に行ったものの誰も来なかったことが認められ、これにより原告は疎外感を受けたことは想像に難くない。
 しかしながら、本件調査報告書においても具体的な約束自体はなかったと認定しているとおり、被告Y1、被告Y7及び被告Y8のいずれかが、原告に対し、具体的な集合時刻及び集合場所を伝えたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告Y8が、被告Y1をからかう中で、原告が映画の待ち合わせ場所に行くきっかけを作ったものと推測されるが、それ以上に、被告Y1、被告Y7及び被告Y8が、意図して原告を待ちぼうけにさせようと企てたとまでは認められないから、被告Y8らの行為が社会通念上相当とされる限度を超えるものとまではいえないというべきである。
 したがって、いじめ行為8に関する原告の主張は、理由がない。」

⑤ 「原告は、平成29年12月5日、被告Y5が、嫌がる原告を空き教室に連れ出し、窓を閉め鍵をかけて監禁し、待ち構えていた被告Y11及び被告Y12とともに、原告が英語係の仕事をしなかったなどと詰問して謝罪を強要した上、泣きながら謝罪する原告に対して執拗に追及した、また、翌6日、被告Y5が、原告を空き教室に連れ出し、被告Y10の加勢を得て、前日に原告が泣いて教室に戻ったことについて口々に詰問して原告が泣くまで責め立てて、謝罪を強要した旨を主張する。
 そこで検討するに、被告学園中学部における1年生の英語の授業は、習熟度に応じてAクラスとBクラスに分かれており、それぞれに別の教室で異なる教員により実施されていたが、合同で行われることも多かった(前記認定事実1(1)エ、証人G1)。また、原告と被告Y5は英語係を務めていて、原告がBクラスを、被告Y5がAクラスをそれぞれ担当しており、英語係の仕事として、授業の終了後に教員の指示によりクラスの生徒のノートを回収して教員に運び、その後教員から受領したノートを各生徒に返却すること、帰りのホームルームの時間に、宿題の範囲を再確認することなどを主に行っていた(前記認定事実1(1)エ、乙N10)。そして、本件調査報告書によれば、被告Y5は、平成29年12月5日の社会科の補習の時間の始まる前に、原告を隣の教室に連れ出し、その教室にいた被告Y11と被告Y12とともに、原告に対して英語係の仕事の仕方について強く責め立て、その結果原告は耐えかねて泣き出してしまった、また、翌6日の朝の自習時間にも被告Y5から隣の教室に呼び出され、被告Y5と被告Y10によって責め立てられ泣き出したところを、G1教諭が見つけ注意したと認定されている(前記認定事実1(5)ウ)。G1教諭は、被告Y5及び被告Y10に対し、自習時間が始まっており英語係の話であれば教室で話せばいいし、被告Y10は関係ない旨を述べ、教室に戻るよう指導した(前記認定事実1(1)エ、甲36(29頁)、58、証人G1)。
 以上のような事実関係に照らすと、被告Y5は、原告に対し、原告の英語係の仕事の仕方について不満を持ち、原告に対し注意するために原告を隣の教室に連れて行き、12月5日は被告Y11、被告Y12と、同月6日は被告Y10と協力して、原告を責め立てたといえる。このように、複数人から、自分の仕事について強く非難されたことに加え、原告がその結果、泣き出してしまったこと(前記認定事実1(1)エ)、直後の同月8日に、原告父母が被告学園中学部を訪問し、G1教諭とE1教諭と面談した際、原告父母は、この出来事を報告した上で、原告が心が折れたと言い出した旨を述べていたこと(前記認定事実1(1)オ)を踏まえると、原告は、この出来事によってかなりの精神的なダメージを受けたものと推認される。
 しかしながら、本件調査報告書によれば、本件第三者委員会は、原告が英語係の仕事ができなかったこともあったと認識しており、10月頃、被告Y5に謝罪したことがあったとしていること(乙N10の24頁⑦)、原告父母が12月8日にG1教諭らと面談した際、原告母は、原告が英語係の仕事をサボっていたことを前提とした話をしていたこと(甲36の12頁)、原告は、平成30年1月にH1クリニック、I1病院に通院した際、英語係の仕事をサボった時期があることを謝罪させられたことを訴えているが(前記認定事実1(4)ア、イ)、仕事を怠った時期があること自体は問題にしていないことが認められ、以上の事実関係を踏まえると、原告が英語係の仕事を怠っていたことを認めるのが相当である。そうすると、被告Y5は、原告が被告Y5と担当を同じくする英語係の仕事をやっておらず被告Y5がその負担をしているとの認識の下、原告に注意をしたのであって、その理由が著しく不合理であるということはできない。
 また、被告Y5の原告に対する注意の態様としては、別室の空き教室に連れ出して、2人ないし1人の生徒とともに、2日連続で原告を強く責め立てたものであるが、初日は社会科の補習が始まる前、2日目は朝の自習時間でG1教諭が通りがかる前のいずれも短時間の出来事であったことがうかがわれ、有形力を伴ったり害悪を告知したりすることや人格を著しく毀損する言葉を投げかけることもなく、単に原告が英語係の仕事をサボったことを責め立てるものであって、初日については、当初は、原告と親しい関係にあるW1も一緒に連れて行かれたこと(甲38の6頁)、空き教室は廊下側に窓があって廊下を通行する教職員及び生徒から、内部の様子を見ることが可能であること(乙M2は別の教室ではあるものの、窓の構造は同様と推認される。)を踏まえると、行為の態様が取り立てて悪質であったとも言い難い。
 以上によれば、原告が被告Y5らの注意によって泣き出すほどの精神的なダメージを受けたことを考慮しても、被告Y5らが原告を注意した行為が、社会通念上相当とされる限度を超えるとまではいえないものというべきである。したがって、いじめ行為9及び10に関する原告の主張は、理由がない。」

⑥ 「原告は、被告Y10が、平成30年4月24日、ロッカーを使おうとする原告を押しのけたり、原告に対し体当たりしたりして、原告を妨害した旨を主張する。
 しかしながら、当該状況の録音記録(甲58)によっても、何かがすれるような音がした後、ある生徒が「すみません、大丈夫ですか。」と言った様子がうかがわれるにとどまり、原告に対して暴行が行われたかは、明らかではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、いじめ行為25に関する原告の主張は、理由がない。」

 上記は本件判決の判断の一部です。本件判決の事案では、28個のいじめ行為の主張について、存在しないか(存在するとは認定できないか)、存在するとしても不法行為とは判断できないと判断されています。上記の判断の内容からも、(暴力が継続する等の苛烈ないじめ事案ではない場合、)いじめの事実を認定させること、認定させた事実を不法行為と評価させることは、必ずしも容易ではないことがわかります。

 大人のパワハラ・パワハラ自死の労災申請・損害賠償請求でも、証拠がなければ事実として認定されず、仮に事実と認定されたとしても証拠上明らかになっている内容や経緯等次第では不法行為とまでは認定されないことがあります。子どものいじめの場合も、経緯等の事実関係や、証明できるほどの証拠の存在が極めて重要です。

 いじめに関して学校や加害生徒への責任追及をお考えの場合、弁護士にご相談ください。

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