いじめと自死との相当因果関係が否定されると、法的には自死の原因がいじめではないと判断されるのに等しく、亡くなったことについての損害賠償請求までは認められません。ところが、いじめを認定しながらも、いじめと自死との相当因果関係を否定する裁判例が相当数存在しています。
平成2年12月26日福島地方裁判所いわき支部判決判例時報1372号27頁は、いじめと自死との相当因果関係を肯定した事例の一つです。
本件判決の事案は、中学3年生の子が自死したことについて、同級生から継続的に暴力を振るわれ、暴力を背景にして金銭の支払を強要される等のいじめを受けていた事案です。
本件判決は、いじめと自死との因果関係について、次のとおり判断しています。
「Aは、逃げ場もないままに、苛烈で執拗ないじめに曝され続けてきたのであるから、これによって清一か心身共に深く傷つき、苦悩してきたてあろうことは容易に推察されるところ、いかに若々しい生命力に溢れている筈の中学生といえども、その主要な生活関係である学校生活の場で、このように自己の全人格や人間としての存在基盤そのものが否定されるようないじめを受け続けたのでは、生きる意欲を失い自らその生命を絶つという挙に出たとしてもあながち不可解なこととはいえないように思われる。
現に、AがBからひどくいじめられていたことを知っていた生徒達は、Aの自殺の報に接して、直感的にそれはBからいじめられたためであると受けとめたことが認められる(〈証拠〉)。
そして、〈証拠〉等の「いじめ」や「子供の自殺」に関する専門的な文献は、子供たちがいじめにあって意外な程に脆く自殺してしまうことがあることを指摘していることをも考慮すれば、Aは利信のいじめに遂に耐えきれなくなって自殺したものと一応推認されるのである。」
(中略)
「以上検討したところによれば、前記3の推認はますます強められこそすれ、全く揺るかされることはないのであって、BのいじめとAの自殺との間に因果関係かあることは明白である。
この点に関して被告の主張するところは、Bのいじめの実態についての十分な認識と洞察を欠いたところに組み立てられたものとの感を免れず、到底採用することができない。」
加害者のいじめについては、次の事実等が認定されています。
① 「同月下旬ころ、休み時間中に教室内で、竹刀を用いてAの頭、腹、背中等を二〇回位殴打した。」
② 「同年七月初めころから同年九月上旬ころまでの間、Aに対し、約一〇回にわたり、雑草を無理に食ベさせたが、うち一回は、大きな葉で雑草を巻いたものを無理に食べさせ飲み込ませたため、Aは、その直後に気持ちが悪くなり、嘔吐した。(〈証拠〉)」
③ 「AがCとよく遊び、同人にBからのいじめについて相談しているのに腹を立て、同月一四日、Aに立ち会わせ見張りをさせながら、Cに対し、「何でお前はAと遊ぶんだ。」と言いつつ、ボール紙製のパイプで強く殴り、更に「これからは一言もAと話すなよ。」と命令した。(〈証拠〉)」
④ 「Bは、二年、三年生になってからはより多額の金銭を要求するようになった。Aはこれに応じてきたが、第二、一7の(五)の申合せに従い、給食費等を原告ナカが直接持参するようになった三年生時からは、これを使うことができなくなったため、同級生や下級生から借金したり、カンパと称して金を集め、更には盗みを敢行することさえあった。一以上につき、〈証拠〉)
Bは、Aに対する暴力をもエスカレートさせ、顔や頭、腹、足等ところ構わず殴ったり蹴ったりするほか、掃除用具等で殴打する等の強度の暴行を多数回(月に数度以上)重ねていた。暴行のきっかけは、AがBに要求された金銭を渡さなかったり、Bの命令を聞かなかったときや、AがBの金銭強要等を教師らに告げた時は勿論、なんらの理由もなく単に遊び半分や憂さ晴らしでなすことも多かった。
これらAに対する金銭強要、暴行などは殆ど教室、廊下、便所等の学校内及び下校途中でなされた。更に、Bは、右金銭強要等の事実を教師らに伝えられるのを防ぐため、Aに対し、「親や先生に言うな、言ったらヤキ入れるぞ。」などと言い、Aが教師や家族等に言いつけたことにより注意を受けると、一段と激しくAに暴行を加えるのが常であった。一以上につき、〈証拠〉)」
⑤「Bは、教師らから注意指導を受けても、何ら反省することなく無視し、その直後にも前と同様の行為を繰り返していた。生徒らも利信について右のようにみており、また、教師らの指導について、Bら問題行動のある生徒に対してそれが表面化した都度一応は注意をするものの、指導が弱く逃げ腰で頼りにならないものと感じていた。(以上につき、〈証拠〉)
そのため、生徒たちは、教師らにBのAらに対する加害行為を告げても仕方がないし、かえって告げたことによりAらや更には自分自身まで利信から暴力を受けることになるのではないかと怖れ、これらの事実を教師らに進んで告げることは殆どなかった。(〈証拠〉)」
上記のとおり、苛烈ないじめが行われており、現在の実務によっても、いじめと自死との相当因果関係が肯定される事例と思われます。
自死の背景にうつ病等の精神疾患が存在することが多く、いわゆる大人の過労自死等でも精神疾患の発病の有無が問題となることが多いです(うつ病等の自殺念慮を生じさせる精神疾患に罹患した場合には、原則として、精神疾患と自死との間の因果関係が推定されるという発想に基づいています。)。本件判決が平成2年の判決であるためか、故人の精神疾患の発病については判断されていないようです。現在の実務では、精神疾患の発病の有無も争点になっていた可能性があります。
ただ、学校側の責任を認めるにあたって、本件判決は、「学校側の安全保持義務違反の有無を判断するに際しては、悪質かつ重大ないじめはそれ自体で必然的に被害制との心身に重大な被害をもたらし続ける者であるから、本件いじめがAの心身に重大な被害を及ぼすような悪質重大ないじめであることの認識か可能であれば足り、必ずしもAが自殺することまでの予見可能性があったことを要しないものと解するのが相当である。」と述べ、大人の過労自死において用いられる判断基準と同様の考え方を用いているように思われます(自死が予見可能性の対象ではなく、自死(ないしは精神疾患の発病)をもたらす危険性がある悪質重大ないじめが予見可能性の対象である、という理解)。
学校側も加害者に指導する等していました。いじめ事件では、学校側が何ら対応していない、加害者側に加担していることすらあります。本件では指導等はしていたものの、表面的なもので、学校側が求められる対応を取っていなかったと判断されています。結論としては、妥当だと思われます。
いじめ、いじめ自死の学校側や加害者への責任追及は、弁護士にご相談ください。
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