平成30年2月1日福岡高等裁判所判決は、次のように述べて、県立高校開催の柔道試合中の事故で傷害を負った生徒らが県に対して請求した国家賠償請求に関して、教諭の安全指導に不適切な点が認められない等として、教諭らに、大会実施を取りやめるべき注意義務等がないとして、一審(地方裁判所)で認められていた生徒らの請求が認められないと判断しました。
「2 高等学校の柔道指導における注意義務の内容について
一審原告らは,争点2ないし5のとおりの注意義務違反を主張しているから,その前提として,高等学校の柔道指導における一般的注意義務について検討する。
(1) 国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には,公立学校における教諭の教育活動も含まれ,教育活動を担う学校の教諭においては,教育活動に際し,生徒を指導監督し,学校事故の発生を防止して生徒の生命及び身体を保護すべき注意義務を負うものと解される(最高裁判所昭和62年2月6日第二小法廷判決・判例タイムズ638号123頁,最高裁判所平成2年3月23日第二小法廷判決・集民159号261頁参照)ところ,技能を競い合う格闘技である柔道には,本来的に一定の危険が内在しているから,学校教育としての柔道の指導,特に,心身共に発達途上にある高等学校の生徒に対する柔道の指導にあっては,その指導に当たる者は,柔道の試合又は練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために,常に安全面に十分な配慮をし,事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うものと解される(最高裁判所平成9年9月4日・集民185号63頁参照)。
(2) そして,高等学校の部活動における柔道による死亡及び重傷事故の発生件数が他の競技に比して高い(甲234,258,259,265,266)ところ,正課授業あるいはその延長ともいうべきクラス対抗の武道大会である本件大会における柔道の危険性も部活動の場合と本質的には異ならず,むしろ柔道に習熟していない生徒の比率が高く,生徒間の技量の格差が大きい場合があることなどを考えると,正課授業等における柔道の指導に関わる教諭においては,生徒の健康状態や技量等の当該生徒の特性等を十分に把握して,それに応じた指導や態勢を構築することにより,柔道の試合又は練習による事故の発生を未然に防止して事故の被害から当該生徒を保護すべき注意義務を負うものと解される。
(3) 以上を前提に,一審原告らが主張する義務違反について検討する。
3 争点2(事前指導における注意義務違反の有無)について」
(中略)
「しかし,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭は,策定した柔道授業の年間指導計画に基づき,一審原告Aを含む生徒らに対し,平成22年度初頭に柔道が怪我や事故の危険を孕む競技であり,頭部を畳に打つ危険性があることなどを指導するとともに,個別の技を指導するに当たっては,自ら模範を示した上で,2人1組の生徒に技をお互いに掛けさせながら,無理に技をかけてはいけないことなどを指導していたというのであり,柔道指導に関する各手引書や学習指導要領解説書の内容に照らしても,一審原告らが主張するように生徒同士での話し合いを通じて理解を深めさせることが要求されていたとは認められないから,G教諭の上記指導方法は上記各手引書等の要請を概ね満たしていたものといえる。
また,一審原告Aは,中学校3年間,柔道部に所属して多くの練習及び試合を経験したこと,本件事故当時の年齢や一審原告Aの本人尋問における供述内容等を考えると,G教諭の上記指導内容を理解し,柔道が怪我や事故の危険を孕む競技であり,無理に技を掛けたり,頭部を畳みに打ちつけることの危険性は十分認識していたといえる。
したがって,G教諭の通常の授業課程における安全指導について不適切な点があったとは認められない。」
(中略)
「しかし,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭は,受け身のやり方について繰り返し指導するとともに,受け身の練習を毎時間実施し,投げられる際には無理に抵抗せずに投げられるようにすることなどを説明していた上,Eが,払い腰を掛けようとした一審原告Aの背中から抱きついたとは認められず,体勢が十分に崩れていない状態のEが投げられまいと一瞬踏ん張ったことが通常の防御の範囲を逸脱していたとは認められないから,Eが無理な防御や抵抗を行ったともいえない。」
(中略)
「したがって,G教諭において投げられた際の受け身や危険防止ついての指導義務違反があったとは認められない。」
(中略)
「ア 確かに,本件大会が,対象学年全員の参加する学校行事として,クラス対抗の試合形式が採用され,1位と2位を表彰する競技方法で実施されていたこと,本件大会の試合会場の周辺は生徒ら観客で埋まり,審判の声が通りにくいほどの歓声が生徒から上がるなど盛り上がりを見せていたこと(F証人10頁,E証人12頁)等を考えると,通常の授業等とは異なり,生徒が競争心や顕示欲を必要以上に煽られたり,冷静さを欠くなどして,反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及ぶ可能性も否定できない。
また,証拠(G証人16頁以下,H証人9頁)及び弁論の全趣旨によれば,本件大会と競技方法を同じくして行われた前年度の武道大会の柔道競技では,少なくとも,技をかけた生徒が対戦相手の生徒と共に倒れこみ,床に手をついた際に右第5中手骨骨折を負った事故,押さえ込みに入った生徒の胸部に対戦相手の生徒の頭部が強打し,胸部打撲及び上腹部打撲を負った事故の2件が発生したことが認められるところ,これらの事故の直接的な原因は定かでないが,大会の形式や雰囲気等によって生徒が反則行為や危険な行為に及んだことが原因となった可能性も否定できない。
そうすると,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭を含めたD高校の教諭らが,前年度の武道大会における2件の事故について詳しく調査した上で,本件大会での事故防止対策を具体的に検討した形跡が見当たらないことは,本件大会における事故防止策に不十分な点があったことを示すものといわざるをえず,また,生徒に本件大会前に練習試合を行わせたり,本件大会の開会式において,生徒に対して張り切りすぎて怪我をしないように改めて注意を行なうことは,生徒が本件大会の形式や雰囲気等により反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及ぶことを防止するという観点からは望ましいといえる。
イ しかし,上記引用に係る認定事実によれば,一審原告Aが中学時代に柔道部に所属して試合に参加しており,本件大会にも黒帯を締めて参加しているのに対し,Eは授業以外には柔道の経験がほとんどなく,体格差もそれ程大きくなかったため,一審原告Aは,大体自分が勝つと考えて,冷静に試合に臨み(一審原告A本人22頁以下),Eは負けると思っていた(E21頁)というのであり,実際にも一審原告Aが終始優勢に試合を進め,本件事故直前の払い腰についても,一審原告Aは,きれいに入れて,うまく投げられると思い,技がうまく掛かっていないとは思っていなかった(一審原告A本人24頁)のであり,観戦していた柔道経験者のFも,一審原告Aがしっかり技の形に入っていて,Eを投げられると思っていた(F証人12頁)のであるから,一審原告Aが,本件大会の形式や雰囲気等で競争心や顕示欲を煽られたり,冷静さを欠くなどしたために,反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及んだとはいえない。
また,上記のとおりEの防御姿勢が正当な防御の範囲を超えていたとは認められないから,G教諭らがEに対して安全指導を行わなかったために本件事故が発生したとはいえない。
さらに,一審原告Aが,両者の動きが瞬間的に止まった際に直ちに技を掛けるのを中止していれば,本件事故が発生しなかった可能性があるものの,上記のとおり,一審原告Aが無理に技を掛けたものとはいえず,技を掛けてから倒れるまではごく短時間であって,一審原告Aが危険を無視して執拗に技を掛け続けたとも認められないから,一審原告Aが技を掛けるのを直ちに中止しなかったことが,明らかに危険な行為であったともいえない。
もちろん,本件試合の雰囲気や興奮等が,技を止めるかどうかの一審原告Aの瞬間的な判断に影響を及ぼしたことは否定できないが,それは通常の試合等でも一定程度は見られるものであり,一審原告Aの柔道の経験や危険性についての理解状況等を考えれば,上記のとおりG教諭らが前年の事故の調査や安全対策の検討を怠ったこと,本件大会前に練習試合等を行わず,本件大会の開会式でも再度注意を行わなかったこと等が原因となって,本件事故が発生したと認めることはできない。
ウ 以上のとおりであるから,一審原告らの上記主張は採用できない。
4 争点3(試合形式による本件大会の開催における注意義務違反の有無)について」
(中略)
「(2) しかし,柔道の試合は,授業等で学習したことを総合的に発揮する場であって,基本動作や対人的技能,態度などについて部分的に学習してきた事項を試合の形式で全体的に学習することができるものであり,試合形式の武道大会を開催することも,柔道の指導を一定期間受けてきた生徒に対する一定の教育的効果が期待できるものであって,技能を競い合う柔道に本来的に一定の危険性が内在していることのみを理由として,武道大会の開催が許されないと解するのは相当でない。
そして,上記3(1)(2)のとおり,G教諭の通常の授業課程において危険防止の指導義務違反があったとは認められず,また,同(3)アのとおり,前年の事故の調査及び検討,本件大会前の練習試合や開会式での注意を行わなかったなど安全対策上不十分と指摘される点があったことは否定できないものの(なお,これらが原因で本件事故が発生したとはいえないことは同(3)イのとおりである。),上記引用に係る認定事実のとおり,予選リーグにおいて試合会場を2分するほかは,国際審判規定に基づいて実施されており,柔道部の2年生の主審,G教諭あるいはH教諭が副審として,生徒が明らかな反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及んだ場合には試合を止めることができる態勢を取っていたのであるから,D高校の教諭らに,本件大会の実施を取りやめるべき注意義務があったとは認められない。
したがって,一審原告らの上記主張は採用できない。」
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