私立高校におけるいじめを理由とした退学処分が有効とされた裁判例

はじめに

 平成29年12月19日東京地方裁判所判決は、私立高校に在籍していた元生徒が、同級生に対するいじめを理由とする退学処分が無効として、私立高校を設置する学校法人に対して、生徒としての地位の確認等を求めた事案において、退学処分が無効とはいえないと判断しています。

退学処分の相当性の判断

 具体的には、上記の裁判例は、退学処分の相当性について、次のとおり述べています。

 「(2) 退学処分の相当性
 ア 前記第2の1(2)のとおり、本件学則34条3項及び本件処罰規定第5章によれば、□□高校の学校長は、生徒に対する退学処分を含めた懲戒処分を決定する権限を有している。そして、私立の高等学校の学生に対する懲戒処分は、教育の施設としての高等学校の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用であって、当該行為が懲戒事由に当たるのかどうか、どのような懲戒処分を選択するのが相当かの判断については、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、同行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果、同行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、学校長の合理的な裁量に委ねられているものと解される(最高裁昭和28年(オ)第525号同29年7月30日第三小法廷判決・民集8巻7号1463頁、最高裁昭和28年(オ)第745号同29年7月30日第三小法廷判決・民集8巻7号1501頁、最高裁昭和42年(行ツ)第59号同49年7月19日第三小法廷判決・民集28巻5号790頁参照)。もっとも、退学処分は、他の懲戒処分と異なり、学生の身分をはく奪する重大な措置であることから、本件学則34条(学校教育法11条、同法施行規則26条3項)所定の退学処分事由の定めは当該生徒を退学させることが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべき事由を限定的に列挙したものと解されるのであって、このような趣旨から考えれば、退学処分を行うに当たっては、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するというべきであるが、当該生徒に改善の見込がなくこれを退学させることが教育上やむをえないかどうかを判断するについて、あらかじめ本人に反省を促すための補導を行うことが教育上必要かつ適切であるか、また、その補導をどのような方法と程度において行うべきか等については、それぞれの学校の方針に基づく学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断に委ねざるをえないのであって、学則等に格別の定めのないかぎり、上記補導の過程を経由することが常に退学処分を行うについての学校当局の法的義務であるとまで解するのは相当でなく、上記補導の面において欠けるところがあったとしても、それだけで退学処分が違法、無効となるものではなく、その点をも含めた当該事案の諸事情を総合的に観察して、その退学処分の選択が社会通念上合理性を認めることができないようなものでないかぎり、退学処分は、学校長の裁量権の範囲内にあるものとして、有効であるというべきである(前記最高裁昭和49年判決参照)。
 イ これを本件についてみると、原告のいじめの行為の軽重や被害生徒への影響、前記1で見たとおり、とりわけAに対する暴行や嫌がらせは、平成24年5月から平成25年11月まで、約1年6か月にもわたり、断続的ではあれ、繰り返されていたものである上、その内容も、身体への傷害を負わせるには至っていなかったが、押しかかる、蹴る、強い力で引っ張るなどの暴行を含むものであるし、教室内におけるいじめに関しては、周囲もいじめに同調する雰囲気の中で、原告が中心となって、執拗に重ねられていたことがうかがわれること、さらに、暴行については、学校外においてもされていたこと、その他の身体的な接触を伴わない嫌がらせ行為についても、他の生徒の面前で多大な恥辱感、屈辱感を与えるものが含まれていることや、Aが原告の行為により大きな精神的ダメージを受けて、原告に対する大きな恐怖心を抱き、外国の高等学校に留学せざるを得なくなったことから考えると、学校長において、原告の一連のいじめ行為の悪質性が退学処分に値する程度に極めて高いと評価しても、その判断に合理性がないということはできない。また、原告によるBに対するいじめは、Aに対するほど執拗なものとまではいえず、Cに対するいじめは、必ずしも原告が中心となって加えられたものとまではいえないものの、上記のAに対する行為に加え、さらに別の生徒にまでいじめをしていたこと自体について、学校長が原告の行為の悪質性を高める事情であると判断しても、その判断が合理性を欠くということはできない。なお、前記1(2)ア④及び(5)ウで見たところによれば、2年次における原告のAに対するいじめの行為は、Fから唆されて開始したという側面や、周囲からはやし立てられて行っていたという側面は否定できないものの、原告がいじめの標的にされていたとまでは認められず、学校長において、上記の事情を勘案してなお、原告の行為が退学処分に値するものと判断しても、その判断に合理性がないということはできない。そして、Aは、Jに対し、前記1(1)で見たとおり、原告に上靴で鼻をかまれて鼻水だらけにされたことをAの両親が知り、家族会議の結果、学校側に相談し、休学することにしたことを打ち明けたというのであり(乙31、証人J)、Aやその両親の申告を受けた学校側として、学校長において、Aの精神的ダメージの大きさを踏まえ、原告によるいじめを直ちに抑止しなければ、Aが更なる被害を受ける可能性が高いと判断したことも、合理性を欠くということはできない。
 ウ 一方、原告が主張するとおり、原告は、本件退学処分以外に、本件学則及び本件処罰規定に基づく懲戒処分を受けたことはなく、また、前記1(2)エで見たとおり、N教諭によるいじめについての注意指導も、クラス全体に対するものにとどまり、前記1(2)イで見たとおり、L教諭による原告への注意指導も、Bの使用する椅子を捻じ曲げた一場面限りのものであることから考えると、必ずしも、原告の平素の行状について、教諭らが大きく問題視していたとはいえないのであって、学校側が原告に対し日ごろから注意指導を重ね、その改善効果がみられなかったというような事情も認められない。
 本件処罰規定は、比較的軽微な不正をしたものに対する「説諭」、他人の身体などに故意に危害を加えたものなどに対する「謹慎」、故意に他人の身体に大なる危害を加えたものなどに対する「停学」を定めており、最も重いものとして、「退学」を定めているところ、上記平素の原告の行状や指導状況に照らせば、退学に次ぐ重い処分である「停学」を検討する余地がなかったとはいえず、前記1(3)のとおり、現に生活指導部会議及び臨時学年会議においても、停学が検討された経緯がある。このように、原告に対する指導、改善の余地が皆無でなかったと見る余地があることから、本件における退学処分の決定は早急であったと指摘されてもやむを得ないところがないとまで断言することは躊躇される。
 しかし、前記アで見たとおり、当該生徒に対する補導の面に欠けることのみをもって、退学処分が違法、無効になるものではないと解すべきであって、前記イで説示したいじめの実態及びその被害に遭ったAに対する影響に加えて、平素から原告を含む生徒らの指導に当たっている教諭らが出席した生活指導部会議及び学年会議を経て、退学処分についての慎重論も踏まえた上で、E学校長において、本件学則34条3項4号及び本件処罰規定第4章の退学事由に該当するとした判断が、社会通念上著しく妥当性を欠き学校長の裁量権の範囲を超え又は裁量権の行使を濫用しているということはできない。
 (3) 退学処分に至るまでの手続の合理性
 原告は、退学処分に至るまでの手続が不合理であった、具体的には、いじめの発覚から退学処分に至るまでの期間が短く、調査も不適切かつ不十分である上、いじめを認定した証拠が示されず、弁明の機会が与えられなかった、退学処分の告知がなかったなどとし、本件退学処分において、これらの手続を執らなかったことについて、学校長においてその裁量権を逸脱し又は裁量権の行使を濫用したものであると主張する。
 しかし、前記1(1)及び(4)で見たところによれば、いじめの発覚から本件退学処分に至るまでの期間は8日間にとどまるものの、前記1(2)及び(3)のとおり、本件退学処分に当たっては、被害生徒及び加害生徒への事実調査が実施され、加害生徒らがいじめの事実を大筋で認めたことを踏まえて、本件学則及び本件処罰規定の第5章所定の手続に則り、生活指導部会議及び臨時学年会議が開かれ、各会議の意見を参考にして、E学校長が本件退学処分を決定するに至っているのであり、これらの一連の手続を踏まえたものであることに加えて、前記(2)イのとおり、原告のいじめを直ちに抑止するという観点を考慮すれば、上記の8日間であるということから、本件退学処分に至る手続の不備があり合理性を欠くとまでいうことはできない。
 また、前記1(4)でみたように、原告によるいじめの具体的な状況については、E学校長との面談時の学校側の原告及びDに対する説明により、概ね明らかにされているというべきであって、その根拠となる証拠の中心は被害生徒らの供述であり、調査の過程における被害生徒らからの聴取内容をそのまま加害生徒に示すことが適切ではないとの学校側の判断が不合理であるとまで言うことができないから、学校側において、原告に対し証拠そのものを示して反論の機会を与える措置を執らなかったからといって、そのような対応が合理性を欠くとまでいうことはできない。
 (中略)
 「(4) 以上見たところによれば、本件の主位的請求のうち、本件退学処分の無効(原告が被告との間で在学契約に基づく学生の地位にあること)の確認の請求は理由がない。また、本件の主位的請求のうち、不法行為による損害賠償請求は、本件退学処分が無効であるにもかかわらず、被告においてこれを有効と取り扱っていることよって、原告が被ったとされる精神的損害の賠償を求めるものであるところ、上記のとおり、本件退学処分は有効であるから、原告の損害賠償請求は、その前提を欠くものであって、理由がない。」

退学処分への対応は弁護士へ相談を

 退学処分への対応は、弁護士へご相談ください。

 上記の裁判例のように、いじめによる被害が重大である等の場合、法的に退学処分の効力を争うのが容易ではない場合もあります。

 しかし、それでも退学処分を回避、又は既になされた退学処分の効力を争いたい場合もあると思います。退学処分を回避するには、早期に学校やその設置者と交渉するのが重要な場合もあります。上記の裁判例ではいじめの発覚から退学処分に至るまでにわずか8日間しかないです。このように、初動が重要になる場合もあります。

 また、学校との交渉を経て、むしろ、自主退学を選択されることもあるかと思います。しかし、学校と十分に交渉しなければ、不満が残ることもあると思います。

 いずれにしても、退学処分の告知に納得できないのであれば、まずは弁護士にご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。

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