はじめに
令和7年3月27日大阪地方裁判所判決の事案は、中学校在学中に自死した生徒の両親が、学校を設置する地方自治体や、学校の校長、教頭や教員らに対して、教員らが生徒に対するいじめを防止等すべき安全配慮義務を怠って、その結果として生徒が自死に至り、教員らが生徒の自死後に自死の原因となったいじめについて調査し、保護者に報告すべき義務を怠った旨主張して、地方自治体に対して国家賠償法1条1項に基づき、教員らに対して民法709条に基づいて損害賠償請求をした事案です1。
時系列
裁判で認められた事実等からすると、以下の経過等があったようです。
亡くなった生徒は、亡くなった当時 中学校1年生で、卓球部に所属していました。
入学後平成30年1月に至るまで 生徒は、他の生徒から、「チビ」と呼ばれたり、プロレス技をかけられたり、「死ねや」「バーカ」等のメッセージをLINEで送信されることがあった。
平成29年5月8日 全校集会でいじめについて訓話が行われ、全学年生徒を対象としたアンケートが実施されました。亡くなった生徒は、いじめをうけたと感じたことがある旨の回答をしていました。亡くなった生徒は、担任からの聴き取りに対して、小学校のときにいじめられたことがあり、そのことを記載したが、今は大丈夫である旨返答しました。担任は、具体的な内容を聞き取ることをしませんでした。学年会でも、校長や保護者と共有するべき重篤な事案であるとは判断されませんでした。
平成29年5月から10月 亡くなった生徒は、合計約20回、保健室に来室していました。
平成29年7月19日 中学校で、1年生のみを対象として、アンケートを実施しました。アンケート結果の分析すると、亡くなった生徒は、クラス内で唯一、要対人支援領域に位置づけられる結果でした。
平成29年8月31日頃 アンケートの分析結果を踏まえて、担任は、教育相談を実施しました。亡くなった生徒は、時に困っていることの訴えをしなかったようです。担任は、特段の措置をとりませんでした。
2学期のいずれかの日 亡くなった生徒は、クラスの複数の生徒から、筆箱を奪われ、生徒が返して欲しいと述べていたにもかかわらず、クラスの生徒らが筆箱を投げ合っていました。このことは、その日のホームルームにおいて学級代表から取り上げられ、担任は、生徒たちに注意をしました。
平成29年9月22日頃 亡くなった生徒は、卓球部の部活動中に、部員である同級生と言い争いになる等しました。
平成29年10月頃 亡くなった生徒と仲が良かった同級生の生徒は、亡くなった生徒の態度に立腹して、亡くなった生徒に対して、「上から目線やめてや」等と発言しました。
平成29年10月30日 亡くなった生徒は、保健室に来室した際に、養護教諭から学校で嫌なことがあるのかと尋ねられて、涙を流し、泣き出しました。亡くなった生徒は、養護教諭に対して、涙を流した理由を話そうとはしなかったようです。また、担任と副担任の教員は、その出来事を聴き、亡くなった生徒に対して、何か嫌なことがあったか等と尋ねました。亡くなった生徒は、何もない旨返答しました。この事実は、学年会でも共有されましたが、保護者や管理職に伝えられることはありませんでした。
平成29年11月頃 亡くなった生徒は2学期に部活動を休みがちになっていました。卓球部の顧問等を務めていた教員は、亡くなった生徒の担任に対して報告し、11月頃、亡くなった生徒に対して、部活動を休む時は連絡するように指導し、顧問等を務めていた教員の電話番号を書いた付箋を渡しました。その後、国語の授業中に、その付箋を他の生徒が取り、亡くなった生徒の背中に貼り付けました。国語の担任教師は、その状況を発見し、貼り付けた生徒に注意をして、その事実を担任に報告しました。担任は、クラスのホームルームで亡くなった生徒等から事情を聴いて、亡くなった生徒が付箋を貼られて嫌な思いをした旨述べたことから、貼り付けた生徒に亡くなった生徒へ謝罪させました。担任は、その事実を学年会で共有しましたが、学年会では、保護者に報告するまでの事実ではないとの結論に至りました。
2学期から3学期にかけて 亡くなった生徒は、国語の授業後に、国語辞典を本棚に返却する際、他の生徒の国語辞典も返却していました。次第に、クラスの生徒の一部は、亡くなった生徒が回収することを念頭に、亡くなった生徒の机の上に国語辞典を置くようになりました。
平成29年12月 亡くなった生徒が他の教室に入っていくと、教室内意にいる生徒らから、「チビが来た」と言われたりしたことが2,3回ありました。
平成29年12月19日 三者面談がありましたが、担任は、アンケートの結果や亡くなった生徒が保健室で泣いていたこと等について、保護者には伝えませんでした。
平成30年1月まで 亡くなった生徒は、卓球部所属の2年生の先輩の生徒から、平成30年1月に至るまで、複数回、プロレス技をかけられることがあり、嫌がる様子を示す等していました。顧問を務める教員は、その先輩生徒が後輩の部員複数名にプロレス技をかけることがあるのを認識しており、そのような出来事が起きた時は、その先輩生徒に注意するとともに、1年生の生活指導担当である、亡くなった生徒の担任に報告する等していました。
平成30年12月下旬以降 亡くなった生徒は、スマートフォンを買ってもらいました。LINEを使って、同級生らとメッセージの送受信をしていました。同級生らは、亡くなった生徒に対して、「何かおごれよ!」、「おごれよ!」、「死ねや」、「バーカバーカバーカバーカバーカバーカ」等のメッセージを送信していました。また、亡くなった生徒が「おはようございます」等のメッセージを送信しても、同級生らは、返信をしませんでした。
平成30年1月27日 生徒は、自死しました。
平成30年5月22日 第三者委員会が設置されました。
令和2年3月26日 調査報告書が作成されました。いじめと生徒の自死との間には因果関係が認められると結論付けられました(法的な相当因果関係の意味ではない旨の注記がされていました。)。また、いじめの発見・予防に関する措置が不十分であり、事故後の対応も不十分であったとの調査結果が示されました。
令和2年5月 当時の校長は、第三者委員会の調査結果に基づき、自死が中学校でのいじめが原因であるとして、日本スポーツ振興センターに死亡見舞金の請求を行いました。その結果、日本スポーツ振興センターによる死亡見舞金が給付されました。
なお、裁判例では、担任が、亡くなった生徒がいじられキャラであり、いじられることを喜ぶ生徒であると考え、鉄板ネタとして「メガネ潰したろか」と発言し、皆を笑わせることを数回行っていたと認定されています。そのような場面では、亡くなった生徒が他の生徒と一緒に笑っており、これを拒否するような態度を明確にしたことがなかったとも認定されています。
担任の安全配慮義務違反
裁判例では、担任の安全配慮義務違反について、次のように判断されています(被告Eは、担任です。)。
「前記認定事実(3)ア、イのとおり、被告Eは、5月8日アンケート及びこれに関する本件生徒からの聴き取り結果から、少なくとも、本件生徒が過去にいじめられた経験を有していることは認識したのであり、そうである以上、被告Eも、「今後同様の事態が生じないようしっかりと見守っていく必要がある」旨認識していたというのである。そのような中で、本件生徒は、7月下旬に実施されたアセスにおいて、「友だちにからかわれたり、バカにされることがある。」、「友だちにいやなことをされることがある」等の質問に「あてはまる」と回答し、分析の結果、「否定的な友だち関係がかなり見られます。友だちとのかかわりの確認、早急な支援が必要です。」とのコメントが付された上で、本件クラスで唯一、要対人支援領域に位置付けられる結果が示された。さらに、前記認定事実(3)ウのとおり、本件生徒は、10月30日には、かねてより頻回に来室していた保健室において、心配事がないか尋ねる養護教諭に対して涙を流して泣き出すに至った。これらは、本件生徒が本件いじめ行為その他の「いじめ」を受けていることを強くうかがわせる事実であったというべきである。しかも、被告Eは、それまでに、少なくとも2学期に生じた本件行為③、④があったことは担任として把握していたはずである。加えて、被告Eは、これらの本件いじめ行為の徴憑となる事実を把握する中、翌11月には、本件行為⑥の発生を知り、本件生徒から嫌な思いをした旨を直接聞いたことが認められる。以上からすると、被告Eは、遅くとも11月末日までには、本件生徒の心身に苦痛を与える本件いじめ行為が現に生じ、又は将来生じ得ることを認識し得たというべきである。
そして、被告Eが、現にいじめが生じている可能性があるとの認識を持って本件生徒や他の生徒の動向を注視し、自ら又は他の教員をして本件生徒及び関係する生徒から丁寧に複数回事情聴取を行ったり、必要に応じて原告ら保護者に相談をするなどの対応をとっていれば、本件いじめ行為が行われたことを早期に発見し、保護者である原告らや他の教員とも連携して、これらにより被った本件生徒の精神的苦痛を緩和し、併せて、他の児童等にも働きかけていじめの問題に関する理解を深めさせるなどして、更なる本件いじめ行為の発生を防止できた蓋然性は高く、前記(1)に照らせば、被告Eにはそのような対応をとるべき法的義務があったというべきである。
しかるに、被告Eは、アセスの結果や保健室での出来事を把握した後に、自ら又は副担任をして、個別に本件生徒に事実確認をしたものの、いずれも本件生徒が、大丈夫である旨答えたというだけで、問題はないと考え、それ以上に、その真意を確かめるための個別の状況確認の機会を設けることなどもせず、本件生徒に対して、「いじめ」の可能性を念頭に置いた特段の対応を取っていなかった。それどころか、被告Eは、本件生徒が、からかわれても笑っているという一面を見ただけで、「いじられキャラ」であって、いじられることを喜んでいるなどと軽信し、自らも、本件生徒に対し、クラスの笑いをとるための「鉄板ネタ」として、複数回、「メガネ潰したろか」との発言をするなど(争いがない)、他の生徒による本件行為①(「チビ・メガネ」と呼ぶ行為)を助長するような言動に及んでいたもので、到底、本件生徒に対する安全配慮義務を尽くしていたとはいえない。」
(中略)
「以上によれば、被告Eは、遅くとも11月末日の段階において、本件いじめ行為を発見・防止し、本件生徒の安全を確保すべき義務に違反したと認められる。」
校長等についても判断されていますが、安全配慮義務違反が否定されています。
担任の安全配慮義務違反と自死との相当因果関係
裁判例では、担任の安全配慮義務違反と自死との相当因果関係について、以下のとおり判断されています。
「(1)前記説示のとおり、被告Eは、11月末日の段階において、本件いじめ行為を発見・防止し、本件生徒の安全を確保すべき義務に違反したと認められるから、本件中学校の設置者である被告市は、かかる被告Eの安全配慮義務違反と相当因果関係を有する本件生徒の損害につき国家賠償法1条1項に基づき賠償義務を負う。
(2)そこで、上記安全配慮義務違反と本件事故による本件生徒の自死との相当因果関係について検討する。確かに、前記認定事実によれば、本件いじめ行為の内容や程度は、本件生徒の心身を傷つけるに十分なものであったということはできるから、本件いじめ行為と本件生徒の本件事故による自死との間に条件関係が認められる可能性はある。しかし、仮にそうであるとしても、上記認定事実によれば、主としては複数の生徒から心理的な攻撃であり、物理的な攻撃は一部にとどまり、その態様は苛烈で執拗なものとまではいえないこと、それらも長期間にわたり反復継続されていたとまでは認められないことなどからすると、本件生徒が本件いじめ行為により自死に至るのが通常起こるべきことであるとは認められない。そして、以上の事情のほか、本件生徒は日頃から明るく積極的な態度をとっており、本件いじめ行為が多発するようになった2学期でさえ、本件生徒はクラス行事である音楽コンクールに指揮者として積極的に立候補し、クラスでもこれが受け入れられ発表を成功させていること(甲1)、本件生徒が希死念慮を吐露したことはなく、原告ら保護者も含めて誰にも本件いじめ行為により深刻な精神的苦痛を被っていることを相談していなかったことも併せて考えると、被告Eにおいて、本件いじめ行為によって本件生徒が自死することまでを予見し得たとは認められない。したがって、被告Eの安全配慮義務違反と本件生徒の自死との間に相当因果関係を認めることはできない。」
いじめと相当因果関係を有する損害
損害については、以下の内容等のように判断されています。
「上記のとおり、被告Eの安全配慮義務違反と、本件生徒の死亡との間に相当因果関係が認められないから、原告らは、本件生徒の死亡による損害を請求することはできない。しかし、本件生徒の生前の精神的苦痛による慰謝料請求については、前記説示のとおり、被告Eが上記安全配慮義務を尽くしていれば、遅くとも11月末日時点で生じていた本件いじめ行為により被った本件生徒の精神的苦痛を緩和し、併せて、更なる本件いじめ行為の発生を防止できたというべきであるから、このような対応がなされなかったことにより本件生徒が被った心身の苦痛は、被告Eの安全配慮義務違反と相当因果関係ある損害と認められる。そして、前記説示に係る本件いじめ行為の内容及び程度、本件いじめ行為により本件生徒が受けた屈辱感、疎外感等の精神的苦痛の重大性を踏まえると、本件生徒の上記苦痛を慰謝すべき金額は100万円をもって相当というべきである。
そうすると、原告らは、本件生徒の死亡により、上記損害賠償請求権をそれぞれ50万円ずつ相続し、本件に顕れた諸事情を考慮すると、原告らそれぞれにつき、5万円ずつの弁護士費用が安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。」
さいごに
その他、自死後の調査等についての損害賠償請求についても判断され、公務員であるとの理由で担任個人の責任が否定される等しています。
上記のように、客観的に見ても相当ひどいいじめがあったと思います。それでも、自死についての責任が否定されています。大人のいじめやパワハラによる過労自死において同程度の心理的負荷(ストレス)があった場合には自死についての損害賠償責任にも届きそうにも思いますが、大阪地裁判決では、認められていません。
また、何があったのかわかりづらいいじめ自死について、相当程度実態が分かっており、背景には第三者委員会の調査はもちろん、当事者(代理人)の調査活動があったのだと思います。
いじめのご相談は、調査(証拠収集)が重要です。ぜひ、弁護士にご相談ください。
